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 副学長あいさつ

自律と自己責任

 みなさん,入学おめでとうございます。
 みなさんは「他者危害の原則」という言葉を知っているでしょうか? これは,ジョン・スチュアート・ミルが『自由論』の中で主張した自由主義の基本原理です。要するに,理性ある成人は他者に危害を与えること以外はどんな行為をしても許される,というものです。
 人間がこれまでの歴史において最も大事にしてきたものの一つは「自由」です。「他者危害の原則」は,その単純かつ強力な表現と言えるでしょう。しかし,これには重要な含みがあります。それは,この原則に従って行為の自由を我が物にできる人は,そもそも自分の行為に責任を負うことができなければならない,ということです。
 さて,金沢大学に入学したみなさんがいま手にしている最大の「宝物」は何でしょう?それは自分の好きなことに好きなだけ時間を使う自由ではないでしょうか?しかし,その「自由」は,家族や友人や担任の先生といったこれまでの防波堤がなくなったことの証でもあります。朝いつ起きるのも自由でしょう。でも,誰も自分の朝ご飯を用意してくれないかもしれません。二十歳になればお酒だって自由に飲めます。でも,飲み過ぎを注意してくれる親しい友人は,近くにいないかもしれません。
 防波堤の先に広がる大海に泳ぎ出したみなさんには,世間を騒がすありとあらゆる危険が襲いかかってきます。いえ,泳ぎだしたばかりの新米だからこそ,みなさんを狙ってくる悪質商法や詐欺やカルト集団があります。私たちから見れば,みなさんはまるでバイ菌の海の中に放り出された「赤ん坊」です。しかし,みなさんが「自由」を欲する以上は,結果に対する責めを免れるわけにはいきません。みなさんは赤ん坊ではないのです。
 自らを律し,生活のリズムを作り,他人と協調していくこと,社会や地域のルールを守ること,地味には見えますが,これこそがみなさんの「自律」の道です。それを実践するためには,この『きぃつけまっし』を大いに活用してください。ここには困ったときの対処法など,大概のことが書かれています。これまでの先輩たちや私たちの知恵が詰まっています。書かれていないことが起きたら,遠慮なく周りの人に聞きましょう。
 ロシアのある小説に登場する大審問官は,人々から「自由」を奪い,厳しく拘束することが彼らの幸福なのだ,と嘯(うそぶ)きます。人々は「自由」など本当は欲していないのだ,と。みなさんは,きっと,「自由」こそあらゆる代償を払ってでも望むべきものなのだ,ということを身をもって示してくれるでしょう。

教育担当副学長  柴 田 正 良

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